本事例では、石川式自動乳鉢・撹拌機(正式名:石川式撹拌擂潰機)16ZDを用い、水系スラリーを真空環境下で処理することで、濃縮・乾燥を進行させながら、同時に微粒子化が進むことを確認しました。処理の進行に伴い、水分が除去されスラリー粘度が上昇する過程においても、撹拌・分散・粉砕といった機械的作用が継続し、粒度分布の変化から乾燥後も粉砕が進行していることが示唆されました。本処理は、加熱を用いず真空のみで進行する点に特徴があり、熱に弱い材料や、水分を含む原料を対象とした評価・試作工程において、「濃縮」「乾燥」「微粒子化」を別工程に分けず、一連の操作として行いたい場合に有効です。特に、以下のような課題を持つ用途に適しています。
・水系スラリーの乾燥と粉砕を一体化したい
・乾燥工程後の再粉砕・再分散を省略したい
・熱履歴をできるだけ与えずに粒子径を制御したい
・少量・試作スケールで処理挙動を評価したい
本事例では、真空自動乳鉢16ZDが、水分除去と同時に粒子構造へ作用できる処理装置であることを、実際の処理挙動と測定データの両面から示しています。
真空自動乳鉢16ZDの外観
本事例では、水40gとゼオライト10gからなる水系スラリーを、石川式自動乳鉢16ZDを用いて処理し、処理時間の経過とともに材料状態がどのように変化するかを観察・評価した。以下に、代表的な処理段階ごとの材料挙動を示す。
①処理前状態
水とゼオライトを乳鉢に投入した直後の状態。ゼオライトは2~5mmサイズの粒子であり、水中に沈降した状態で存在している。この段階では、材料は単なる固液混合物であり、スラリーとしての均一性はまだ低い。
②大気中処理による水系スラリーの形成
大気中で一定時間処理することで、撹拌・分散が進み、ゼオライト粒子が微粒化された水系スラリーが形成された。この時点で、粒度分布は大きく変化しており、自動乳鉢による機械的作用によって、分散と粉砕が同時に進行していることが確認できる。
表1.形成された水系スラリーの粘度・粒度分布データ
| 数値 | ||
| 粘度データ[mPasec] @30rpm | 88 | |
| 粒度分布データ | メディアン径 [μm] | 11.7 |
| D10 [μm] | 2.0 | |
| D90 [μm] | 109.6 | |
水系スラリーの形成
③真空処理開始直後
真空引きを開始すると、スラリー中に含まれていた気泡が一気に膨張し、突沸が発生した(写真参照 乳鉢側面に突沸痕多数あり)。
これは、水系スラリーを真空環境に導入する際に生じやすい挙動であり、処理条件設定時の注意点となる。
真空処理直後の乳鉢/乳棒写真
④真空下での濃縮進行(60分)
真空下で処理を継続すると、水分が徐々に除去され、スラリーは次第に粘性の高い状態へと変化した。
この段階においても撹拌・粉砕は継続しており、粒度分布の変化から、濃縮が進む過程でも微粒子化が同時に進行していることが示唆される。
表.60分処理後の粘度・粒度データ
| 数値 | ||
| 粘度データ[mPasec] @30rpm | 1160 | |
| 粒度分布データ | メディアン径[μm] | 7.9 |
| D10 [μm] | 1.9 | |
|
D90 [μm] |
39.2 | |
60分真空処理後の材料写真
⑤乾燥過程から乾燥後への移行(90分)
処理をさらに進める(90分)で材料の一部が乾燥し、湿潤状態と乾燥状態が混在する段階へ移行した。スラリーとしての流動性は失われ、自動乳鉢の機械的作用は継続している。
真空処理90分後の材料状態
(乾燥と泥状部の混在)
⑥完全乾燥後の粉砕状態(110分)
最終的に水分はほぼ除去され、材料は乾燥粉体となった(写真参照)。この状態においても粉砕は進行しており、粒度分布データから、乾燥後も微粒子化が進んでいることが確認された。
表.110分処理後の粒度分布データ
| 数値 | ||
| 粒度分布データ | メディアン径 [μm] | 4.6 |
| D10 [μm] | 1.4 | |
| D90 [μm] | 29.4 |
下の粒度分布の時間推移のグラフを示す。これからも、メディアン径、D10、D90のいずれも時間経過と共に小さくなっており、濃縮・乾燥と微粒子化は同時に生じていることが分かる。
真空処理110分後
(乾燥粉体となった材料)
水系スラリーメディアン径とD10 の時間推移
水系スラリーD90の時間推移
⑦本事例からわかること
本処理事例より、真空自動乳鉢16ZDは、水系スラリーを濃縮・乾燥させながら、同時に微粒子化を進行させることができる装置であることが分かる。
① 多孔質無機粉体の乾燥前処理
材料例:ゼオライト、アルミナ、シリカ
濃縮・乾燥中も機械的作用が継続し、団粒の生成を抑制
乾燥後の再分散性向上や後工程の解砕負荷低減に有効
② 微粒子スラリーの固形分濃縮
材料例:セラミック微粒子、顔料、金属酸化物粒子
濃縮過程で同時に微粒子化が進行し、凝集を抑制
分散性を維持したまま高濃度スラリーの調整が可能
③ 湿式粉砕後スラリーの一体処理
材料例:湿式粉砕済み無機粉体、電池材料前駆体
濃縮→乾燥→解砕を装置内で連続的に進行可能
工程短縮と粉体回収の効率化に寄与
Q1. 真空下でも本当に濃縮・乾燥しながら粉砕は進むのですか?
A. はい。減圧により水分が蒸発して濃縮が進む一方で、乳棒と乳鉢の機械的作用が継続するため、生成する凝集塊がその場で解砕されます。これにより、濃縮・乾燥の進行と同時に微粒子化が進行します。
Q2. 通常の乾燥機との違いは何ですか?
A. 一般的な乾燥機は水分除去が主目的で、乾燥後に別途粉砕工程が必要になる場合があります。本装置では、乾燥過程から機械的作用が加わるため、「濃縮・乾燥」と「解砕」を同時に進められる点が大きな特長です。
Q3. 真空下で粒子の微粒子化が進むメカニズムは何ですか?
A. 濃縮に伴いスラリー粘度が上昇し、粒子間に二次凝集構造が形成されます。この状態で乳棒の圧縮・せん断作用が継続的に作用するため、生成した凝集塊が逐次解砕されます。すなわち、「濃縮による凝集生成」と「機械的解砕」が同時進行することで、乾燥過程から粒径の微細化が進行します。
Q4. 加熱式の濃縮・乾燥+粉砕と何が違うのですか?
A. 加熱式では外部から熱を与えて乾燥を促進できますが、熱変質や乾きムラが生じる可能性があります。真空方式では減圧により低温で水分を蒸発させつつ、機械的作用で凝集塊を解砕できるため、熱に敏感な材料にも適用しやすく、乾燥過程から粉砕が進行する点が特長です。
Q5. 真空処理時の注意点はありますか?
A. 減圧開始直後に、スラリー内に含まれている気泡が急激に膨張し、突沸的に飛散する場合があります。初期減圧は段階的に行い、飛散防止に配慮することが推奨されます。また、後半は気化熱供給が制限されるため、乾燥速度が低下する点にも留意が必要です。
本事例の詳細な実験条件、粒度分布・粘度データ、および真空乾燥時の熱収支評価については、下記の技術レポートをご参照ください。
