高額な設備は不要!自動乳鉢D18SEBを用いた少量スラリーの安全・簡易濃縮実験ケーススタディ

1. 解決すべき課題:既存のスラリー濃縮方法の壁

従来の濃縮方法が抱える主な課題

スラリーを濃縮する際、一般的には以下の装置が用いられますが、それぞれに導入や運用上の課題が存在します。

①デカンター遠心分離機:

    ◦ 装置が高額である。

    ◦ 大きな設置場所を占有する。

    ◦ 運用コストが高い。

    ◦ これらの理由から、導入には慎重にならざるを得ません。

②シックナー(濃縮タンク):

    ◦ スラリーの粒子サイズや濃度によっては、濃縮に時間を要する場合がある。

    ◦ 少量のスラリーの濃縮には向いていない。

 

■私たちの目的

これらの課題を解決するため、石川式自動乳鉢(正式名称:石川式撹拌擂潰機)で濃縮できるかどうかの実験検証を行いました。

実験に用いたD18SEBの詳細はこちらをクリック

2. 独自のアプローチ

自動乳鉢D18SEB機を用いて、フィルム二重断熱カバーに吸排気口を施し、空気を吸排気させ、かつスラリーを60℃程度に加熱することにより、少量のスラリーを平易に濃縮できることが分かった。

 これは、「スラリー専用エバポレーター」としての使用可能な証明にもなりうると考えている。

また、一般的なエバポレーターは真空環境で加熱蒸発を行うが、この方法では、真空設備の導入が難しい現場や、揮発性の高い溶媒を使用する研究環境でも、安全、かつ手軽に使用できるという点で非常に有用である。

 

背景・目的

自動乳鉢D18SEBによる加熱・吸排気濃縮

従来の高額な遠心分離機や大容量のシックナーに代わる方法として、弊社の自動乳鉢「D18SEB機」をベースにした、特殊な濃縮システムを構築しました。

濃縮の仕組み

装置の改造: 自動乳鉢のフィルム二重断熱カバーに吸排気口を施しました。

物理的条件: スラリーを60℃程度に加熱しながら、カバー内に空気を吸排気させます。

 

濃縮の加速: これにより、カバー内が負圧に近い環境となり、加熱と相まってスラリーの濃縮を加速させます。

実験に使用した装置と材料

分類 装置名/材料名 特徴と役割
 自動乳鉢

D18SEB 

(石川式撹拌擂潰機)

小型機D18Sをベースに、鉢底が120℃まで加熱できるように開発された装置
磁器乳鉢

CC磁器鉢

(加熱・冷却専用)

一般的な磁器乳鉢を銅ジャケットで覆い、熱伝導接着剤を介することで、鉢底のみを加熱しても磁器乳鉢全体を金一に昇温できるようにした弊社開発品
ポンプ

NVP-2000

(ダイヤフラムポンプ)

剪断力が小さいため、流体(すらり0にダメージを与えずに空気をやさしく吸排気できる。安価でメンテナンスが容易な点も利点
スラリー

電波シールドペースト

DOTITE FE-107

銅(50~60%)、銀(0.52%)、トルエン(33%)などの成分を含む

   図1.D18SEB装置全体写真

図2.D18SEBのヒーターとCC磁器鉢写真          図3.D18SEBの断面図


図4.D18SEBヒーターの温度特性


図5.実験システム構成

3. 実験結果:わずか30分で濃縮状態に到達

スラリー 500gD18SEB 機に投入し、鉢底温度 60℃一定の条件下で、加熱と空気の吸排気(排気カップラーを凝縮器に接続し吸引)を行い、撹拌・混合を開始しました。

■結果の概要

• 初期状態(0分): 粘性を持ったピンク色の液体でした(図6)。

30分後:7に示すように、スラリーはヘラで削り取れる程度に固体化しており、明確に濃縮が達成されていることが確認されました。

この結果は、加熱と空気の吸排気によるフィルム二重断熱カバー内の負圧環境が、スラリーの濃縮を効果的に加速させたことを示唆しています。

濃縮過程の動画を公開中

実際のD18SEB機での濃縮過程の動画は、下記URLよりご覧になれます。 

(動画URLhttps://youtu.be/rI7yq9a3oQ0

図6. 初期のスラリー状態

図7. 実験開始30分後のスラリー状態


4. 結論とお客様への導入メリット

本実験により、自動乳鉢 D18SEB 機に吸排気システムを組み合わせ、60℃程度の加熱を行うことで、少量のスラリーを平易に、かつ安全に濃縮できることが証明されました。

自動乳鉢濃縮の3つの大きなメリット

この技術は、自動乳鉢を「スラリー専用エバポレーター」として使用可能であることを証明します。

1. 簡易性・低コスト: 高額なデカンター遠心分離機や、設置場所を取るシックナーが不要。

2. 安全性と手軽さ: 一般的なエバポレーターは真空環境で加熱蒸発を行いますが、本方法では大掛かりな真空設備が不要。

3. 幅広い応用性: 真空設備の導入が難しい現場や、トルエンなど揮発性の高い溶媒を使用する研究環境においても、安全かつ手軽に使用できるという点で非常に有用です。

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※さらなる濃縮加速をお求めの場合

 

弊社では、さらに濃縮を加速できる可能性のある真空型で加熱タイプの装置(例:18ZDEBなど)も開発しております。詳細は弊社ホームページの製品情報にてご紹介しております。

18ZDEBの詳細はこちら

 

よくある質問

Q1:なぜ既存の濃縮装置(遠心分離機やシックナー)ではなく、自動乳鉢を使うのですか?

A1: 既存の濃縮装置には、それぞれ導入や運用上の課題が存在します。

• デカンター遠心分離機は、高額で、大きな場所を占有し、運用コストも高いため、導入に慎重にならざるを得ません。

• シックナー(濃縮タンク)は、スラリーの粒子サイズや濃度によっては濃縮に時間を要する場合があり、少量の濃縮には向いていません。

本実験は、これらの課題を解決し、少量のスラリーを平易な方法で濃縮できる方法を確立するために、石川式自動乳鉢を使用しました。

 

Q2:自動乳鉢D18SEBはどのようにスラリーを濃縮するのですか?(仕組み)

A2: 自動乳鉢の「加熱機能」と「吸排気システム」を組み合わせることで濃縮を加速させています。

具体的には、D18SEB機のフィルム二重断熱カバーに吸排気口を施し、ダイヤフラムポンプ(NVP-2000)を用いて空気を吸排気させます。この状態でスラリーを60℃程度に加熱しながら撹拌することで、カバー内の環境が負圧に近い状態になり、スラリーの濃縮が加速されます。

 

Q3:濃縮実験にかかる時間はどれくらいですか?

A3: 実験では、わずか30分で濃縮状態に到達しました。

初期状態(粘性を持ったピンク色の液体)から、鉢底温度60℃一定の条件下で撹拌・混合を開始した結果、30分後にはヘラで削り取れる程度に固体化していることが確認されました。

 

Q4:この自動乳鉢による濃縮方法の最大のメリットは何ですか?

A4: 最大のメリットは、安全性と手軽さにあります。

一般的なエバポレーターは真空環境で加熱蒸発を行いますが、本方法では大掛かりな真空設備を導入する必要がありません。そのため、真空設備の導入が難しい現場や、トルエン(33%含有)などの揮発性の高い溶媒を使用する研究環境でも、安全、かつ手軽に使用できるという点で非常に有用です。これは、自動乳鉢を「スラリー専用エバポレーター」として使用可能であることを証明しています。

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自動乳鉢を用いたスラリーの濃縮実験
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